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​トロッコ

芥川龍之介の一番好きな作品である。中学校の教科書に載っていた。「鼻」でも「羅生門」でも「蜘蛛の糸」でもなく、「トロッコ」が一番雰囲気がある。

この話、村のはずれに偶然あったトロッコを少年がどんどん押していって、帰るころには暗くなって、とても不安になったという話。

芥川は、場面を切り取って心境を感じさせるのがめちゃくちゃ上手い。私が子供心に、自分の心境と被ったところを記す。

・調子に乗ってトロッコを押していったはいいが、帰らなければいけない場面になって、本当は不安なのに律儀に工夫にお辞儀をする場面

 このとき、主人公の少年が泣き出してしまうのではなく、律儀にお辞儀をするのがいい。とってもいい。本当は不安でたまらないのに、体が勝手に動 く。何か、自分の身に途方もないことが起こるとき、その時の対応は夢うつつである。けれど案外しっかりしているのは何故なのだろう。あとで思い返すと大したことではないせいか。

 

・線路沿いにずうっと歩いている、そして村の明かりが見えた瞬間

 絶対帰れるってわかっているのに、それでも不安なところ。昔家族で海に行ったとき、迷子になりかけて、砂浜で人が多い中、もとの居場所まで戻ったという記憶がある。私は、この方向で合ってると思いながら進んでいたけど、どうしても不安で嫌な汗をかいていた。でも、結局一人で家族のもとに帰れた。そのときの対応がどこ行ってたの?くらいの軽い対応だったので、なんとなく力が抜けた。自分はひどく大仕事をしたという気分だったのに、周りからみれば大したことないのだなと感じた瞬間である。  

(2016.07.21)

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