ある書物狂の老人を知っている。

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彼は、スメリヤ語やアラメヤ語ばかりでなく、紙草（パピルス）や羊皮紙に誌された埃及文字まですらすらと読む。およそ文字になった古代のことで、彼の知らぬことはない。

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彼はツクルチ・ニニブ一世王の治世第何年目の何月何日の天候まで知っている。

しかし、今日の天気は晴か曇か気が付かない。

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彼は、少女サビツがギルガメシュを慰めた言葉をも諳んじている。

しかし、息子をなくした隣人を何と言って慰めてよいか、知らない。

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彼は、アダッド・ニラリ王の后、サンムラマットがどんな衣装を好んだかも知っている。

しかし、彼自身が今どんな衣服を着ているか、まるで気が付いていない。

何と彼は文字と書物とを愛したであろう！

 

余り眼を近づけて書物ばかり読んでいるので、彼の鷲形の鼻の先は、

粘土板と擦れ合って固い胼胝ができている。

彼は、臍に顎のくっつきそうな傴僂である。

しかし、彼は、恐らく自分が傴僂であることを知らないであろう、

傴僂という字なら、彼は、五つの異なった国の字で書くことが出来るのだが。

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ただ、こうした外見の惨めさにもかかわらず、この老人は、実に———

全く羨ましいほど——いつも幸福そうに見える。

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